ファミリースクリプトとは?
家族が自分たちの伝統や行動を家族のメンバーに伝えるときには、ファミリースクリプト(直訳すると家族脚本)と呼ばれるものが適用されます。
これは家庭内における文化や無意識に行われる習慣や共有の価値観などを指します。
ファミリースクリプトには、個人の行動、会話、考えかたなどに対して、家族としてどのようにふるまうべきか、どこまで許容できるかということも含まれています。
たとえば、食器の洗い方のような具体的なものから、喧嘩の仕方や親密さの表現方法のような抽象的なものまで様々なものがあります。
お風呂の掃除当番や門限があったり、朝ご飯を食べるかどうか、家族で揉めたときにはどうやって解決するのかという取り決めがある、といった感じですね。
ファミリースクリプトは人間関係に役立つ
このファミリースクリプトを理解しておくことは、恋人との文化的な違いや習慣の違いから生まれる衝突を解決することで重要です。
また、文化が大きく異なる国際恋愛などにもおおいに役立ちます。
つまり、人間関係の問題を解決したり、衝突や対立があったときスムーズに解決に導きけるかどうかなどにも家庭内のルールや習慣といったファミリースクリプトが関係しているのです。
ファミリースクリプトが原因で起こる他人との衝突
たとえば、「食事をするときに話をしてはいけない」と言われて育った人が、「食事のときはみんなでおしゃべりをして楽しく過ごす時間だ」と言われて育った人と食事を一緒にしたら、お互いに相手のことを失礼な人や嫌な人だと自然と思ってしまいます。
ファミリースクリプトは、自分の中にある常識のようなもので、それに反することをする人たちを無意識に否定するようになってしまうのです。
しかし、このファミリースクリプトを理解しておくことで、無意識に生まれる否定や不快感をなくしつつ、相手のファミリースクリプトを理解する心構えができるようになります。
なので、恋人や夫婦など、より親密な人間関係を形成していくうえでファミリースクリプトのを理解することは重要になってきます。
ファミリースクリプトの3つの種類
一般的に、このファミリースクリプトには、再現型スクリプト、修正型スクリプト、即興型スクリプトの3種類があります。
再現型スクリプト
再現型スクリプトとは、意識的にも無意識的にも、幼少期から一緒に暮らした家族の文化を受け継いだものです。
例えば、家の掃除の仕方、食事中のエチケットやマナー、テレビを見たりゲームをするときのルールなどです。
私たちは実家を出て行っても、自然とそこでやっていたのと同じように生活する習慣があるのです。体に染みついているのですね。
再現されるスクリプトはたいてい、自分が子どもの頃に好ましいと感じた行動やポジティブな経験をもとに構成されています。
親への忠誠心が再現を起こさせる
また、本来は嫌いだった行動や態度を再現してしまうこともあります。
これは、親への「忠誠心」を無意識のうちに表現していることが多いとされています。
親から受け継いだスクリプトを再現することで、自分が子を持つ親として好ましい行動をしていることを実親に伝えつつ、自分の子どももそれを再現すべきだと考えているのです。
例えば、多くの人は、自分が子どもの頃に言われて嫌だったことを自分の子どもに言っていることに気づきます。
「勉強しなさい」「早く寝なさい」などは典型的な無意識の再現型スクリプトですね。
妊娠中の母親の食事習慣は子供にも移ります。健康的な食事をしていた母親から生まれた子供は健康食を好み、ジャンクフードをよく食べていた母親から生まれた子供はジャンクフードをより好みます。
— 心理学を解説する ちょっぺ〜先生 (@kruchoro) 2021年5月30日
修正型スクリプト
修正型スクリプトは、人が意識的に、幼少期に経験したスクリプトとはまったく異なる、あるいは逆のことをすることを選択する場合に起こります。
また、地理的、宗教的、経済的に育った場所から「逃げる」ことで、修正型スクリプトを実行する人もいます。
「勉強しなさい」と言われて育った人は、自分の子どもには伸び伸びと遊んでもらおうとするという感じですね。
親への反発が修正行動を起こす
人はさまざまな方法で、自分が受け継いだファミリースクリプトの呪縛から逃げようとします。
遠く離れた国に引っ越すかもしれませんし、名前を変えたり、改宗したりします。生まれ育った家族との関係を断つこともあります。
これらはすべて修正型のスクリプトです。家族から受けた影響を変えることで暮らしを改善しようとしたり、アイデンティティを持とうとする試みです。
即興型スクリプト
即興型のスクリプトは、現実的な問題から必要に迫られたり、個人の好奇心から生まれます。
これは、先述の2つのスクリプトとは違って、過去の習慣の再現や修正ではありません。
即興型のスクリプトは新しいものであり、しばしば自然発生的に起こります。状況に合わせて利用できる新しい習慣や考え方を取り込んでいくというイメージです。
たとえば、自分の好奇心から音楽を始めたり定期的な運動を習慣にしたり、仕事の影響から英語の勉強を始めたり丁寧な言葉遣いをするようになるといった感じです。
このようにして、即興型を除くと、私たちは家族との暮らしから、多くの文化や習慣を受け継ぎ、無意識に影響を受けています。
次回は、自分の中のファミリースクリプトを理解し、それに縛られることなく状況に合わせてよりよいものに書き換える方法を解説していきます。
参考論文、資料
Byng‐Hall, John. (2003). The Family Script: A Useful Bridge between Theory and Practice. Journal of Family Therapy. 7. 301 – 305. 10.1046/j..1985.00688.x.
https://doi.org/10.1046/j..1985.00688.x
John Byng-hall (1986) Family scripts: A concept which can bridge child psychotherapy and family therapy thinking, Journal of Child Psychotherapy, 12:1, 3-13, DOI: 10.1080/00754178608254780
https://doi.org/10.1080/00754178608254780
Rewriting Family Scripts: Improvisation and Systems Change (The Guilford Family Therapy) ハードカバー – 1995/9/22 英語版 John Byng-Hall (著)