手を洗うと気持ちが切り替わる
トロント大学の心理学者ピン・ドン博士の研究によると、手をきれいに洗うだけで、古い目標を捨て、新しい目標を追求できるようになることがわかっています。
この研究では、実験参加者は、健康になる、節約するなどいくつかの目標に対してプライミングされました。
プライミングとは?
プライミングとは、無意識のうちに心の中にある特定の目標を活性化させることです。
例えば、「健康になる」とプライミングされると、人はより健康的な食品を選んだり運動するようになります。
このように最初に特定の目標をプライミングしたあとで、実験参加者たちには手を洗って拭いてもらうという行動をしてもらいました。
すると、手を洗った後で、最初に無意識にプライミングされた目標を忘れてしまうことがわかりました。
手を洗うと目標に対するやる気が消える
このクレンジング効果により、健康的な目標でプライミングされた人達は、手を洗った後で、健康的な行動を取る傾向が減ってしまいました。
彼らは、グラノーラバーよりもチョコレートバーを選ぶ傾向が強くなったのです。
つまり、せっかく「健康になろう!」と意気込んでいるときに手を洗ってしまうと、そのモチベーションが消えてしまうのですね。気をつけねば。
クレンジング効果の使い方
もちろん、この研究で一番重要なのは、「手を洗うだけで古い思考を手放すことができる」という点です。
このポイントさえ理解できていれば、大事な目標を見失うことなく、むしろ目標に向かって集中することに使えます。
例えば、課題に集中しなければいけないときに課題以外のことで頭がいっぱいになってしまうときなど、手を洗ってこのクレンジング効果を使うことで、思考をうまくリセットすることができます。
うまくすれば、反芻思考の解消に使えるかもしれませんね。
目標の重要性を増やす方法
また、手を洗ったあとで新しい目標を掲げるとその目標の重要性が増加し、より目標にコミットメントできるようになります。
なので、この心理テクニックの使い方としては、「過去の目標や思考を捨て去りたいとき」に「新しい目標を掲げる前」におこなうのが良いわけですね。
ちなみに、何も水道で水に手をさらさなくても、ウエットティッシュやハンカチのようなもので手の汚れを拭き取るしぐさをすれば十分にクレンジング効果は得られます。
要は、「汚れを取るような動き」がポイントなんですね。この動きがトリガーとなって私たちの気持ちを切り替えるのです。
なので、もしかすると、アルコール消毒でもいいのかもしれません。
身体を動かさなくなると、ドーパミンやアドレナリンといったやる気にかかわる神経物質の分泌量が減って精神的機能が低下します。「最近何もやる気が起きない」のは、もしかすると運動不足が原因かもしれません。気を付け!
— 心理学を解説する ちょっぺ〜先生 (@kruchoro) 2022年6月18日
手を洗って過去の感情をリセットする
ただし注意点として、この研究では、手の浄化作用が目標の追求に及ぼす短期的な効果しか検証していないので、長期的な効果については未知数です。ご了承ください。
しかし少なくとも、過去の研究でも、手を洗うことで過去の自分の経験や感情から切り離すことができることはわかっています。
なので、目標の切り替えのほかに、パニックになったときの不安対処法の一つとして応用するのも良いでしょう。
参考論文
Dong, P., & Lee, S. W. S. (2017). Embodiment as procedures: Physical cleansing changes goal priming effects. Journal of Experimental Psychology: General, 146(4), 592–605.