長時間の通勤は生活満足度を減少させる
ギャロップ社のリサーチアナリストであるスティーブ・クラブツリー氏が行った2010年の調査では、通勤に90分以上かかる人は不安感が高い一方で、日々の生活の満足感は少ないことがわかっています。
ギャロップ社は、自分の強味や才能を診断するツールとして有名な「ストレングスファインダー」を開発した企業です。世論調査を行う企業としては高い信頼性を持っています。
これはギャロップ社が、2009年7月1日から2010年6月30日のあいだに、18歳以上の労働者173,581人に行ったインタビューに基づいた調査です。
アメリカでは、自宅から職場までの平均通勤時間は現在23分となっていますが、ほとんどの都市で通勤時間が上がってきています。
アメリカの労働者の約5人に1人(19%)は、通勤するのに30分以上の時間を費やし、3%は片道1時間以上の通勤をしています。
長時間の通勤で腰痛が再発する
通勤時間の長い人は、健康上の問題を抱えるリスクが高くなります。
たとえば、首や背中(腰)といった部位の慢性的な痛みです。
通勤が90分を超える場合、3人に1人は、過去12か月間に首または背中の状態が悪化し、慢性的な痛みが再発したと報告しています。
しかし、これが通勤時間が10分以下の場合では、この痛みが再発した人はおよそ4分の1にまで下がります。
つまり、腰痛持ちの人は通勤時間が長いと、それだけ痛みが悪化して苦しんでしまうということです。
通勤時間が長いと太りやすくなる
またほかにも、通勤時間が長い人は、高コレステロール血症と診断された病歴があり、肥満になる可能性も高くなります。
通勤時間が長いとコレステロール値が上がって太りやすくなってしまうのです。
長時間の通勤でメンタルヘルスも悪化する
長時間の通勤は身体的な負担だけではなく、心理的な負担も増やします。
例えば、著名な行動経済学者であるプリンストン大学心理学部のダニエル・カーネマン博士とアラン・クルーガー博士の研究によると、通勤時はポジティブな感情が減って、ネガティブな感情が増えてしまうことがわかっています。
博士らが2004年にテキサス州に住む909人の女性の労働者を対象に、日々の感情レベルを追跡調査したところ、ネガティブな感情に対するポジティブな感情の比率が、通勤時間中には特に低下していることを発見しました。
ネガティブな感情に対するポジティブな感情が多いほど幸福度が上がったりカップル仲が良くなると言われていますが、通勤時にはこの比率が下がってしまっているのです。
まぁ毎日の通勤が楽しい人はいないと思うので、これは誰もが納得する結果でしょう。
長時間通勤で不安が高まる
クラブツリー氏の調査結果でも、長時間の通勤はメンタル面への悪影響があることが示されています。
自宅から職場に行くまでに90分以上かかっている人の40%は、前日の不安レベルが高くなっていました。これが通勤時間が10分以下の人の場合では、28%でした。
通勤時間が長いだけで、仕事に関係ない時間まで不安を感じてしまうようになるのです。
そして逆に、通勤時間が長い人たちは、一日を十分に楽しんだり十分に休んだと感じられる可能性が低くなってしまいます。
年収、年齢、教育レベルは関係ない
通勤時間の長さが与えるこれらの影響は、フルタイムとパートタイムの労働、年齢、教育、所得レベルに関係なく存在しています。
恐ろしいことに、いくらお金を稼いでいようが、いくら肉体が若かろうが、長時間の通勤によるストレスは相殺されないのです。
通勤で失われるのは時間だけではない
というわけで、とにかく通勤という行為は私たちの健康を損なう原因になってしまうようです。
通勤で失われるのは単に時間だけではなく、健康や幸福も失われるのだということも認識しておきましょう。
雇用主や経営者の皆様におかれましては、ぜひともリモートワークの推進や住居手当やガソリン代の手当てなどを含めた福利厚生、経済的保障を手厚くするように心がけていただきたい次第です。
それは何より従業員の幸福度だけではなく、企業の業績をアップさせることにもつながりますからね。
参考論文
Well-Being Lower Among Workers With Long Commutes
https://news.gallup.com/poll/142142/wellbeing-lower-among-workers-long-commutes.aspx
Kahneman, Daniel, Alan B. Krueger, David Schkade, Norbert Schwarz, and Arthur Stone. 2004. “Toward National Well-Being Accounts.” American Economic Review, 94 (2): 429-434.DOI: 10.1257/0002828041301713