ASD、ADHDが持つ障害とは?
今回は実行機能の解説の続きです。
簡単に振り返ると、実行機能とは、終わらせるべきタスクを期限内に終わらせるための能力のことです。
しかし、自閉症やADHDの症状を持つ人の多くは、この実行機能の働きに問題を抱えています。
事実や詳細といった事柄に対する記憶がいかに優れていても、また、いかに知性が高く賢かったとしても、日常生活や感情のコントロールに困難を抱えることがあります。
そのため、自閉症を持つ多くの人が複雑で難しい情報や扱い、優秀なキャリアを積むことはできても、より基本的で不可欠な生活面に関する事柄を管理することはかなり難しくなります。
仕事となると優秀なのにほかのことはまるでダメで、家の中が散らかっているような、一見するとだらしくなく見えるキャラクターをイメージしてもらえればわかりやすいと思います。
実行機能がつかさどる3つの重要な仕事
実行機能のカテゴリーには、次の3つの能力があります。
- ワーキングメモリー
- 認知的柔軟性
- 衝動の制御
これらの能力や機能をまとめて実行機能と呼んでいるのですね。順番に解説していきます。
ワーキングメモリー
ワーキングメモリー(Working memory)とは、限られた量の情報を頭の中に保持し、すぐに使えるように取り出す能力のことを指します。
有名な心理学用語なので聞いたことがある人も多いかと思います。ワーキングメモリーは作業記憶や作動記憶とも呼ばれます。
人の記憶がノートのようなものならば、ワーキングメモリーは付箋紙のようなもので、作業中などにその情報が必要なときにすぐに取り出せるようになっています。
この機能により、例えば仕事の最中でも、必要なときに必要な情報にすぐにアクセスすることができるのです。
長期記憶にも影響を与える
また、ワーキングメモリーは、脳が長期記憶として情報を保存することにも役立っています。
「短期記憶(Short-term memory)」と混同してしまいやすいのですが、ワーキングメモリーと短期記憶とは別物です(ここでは詳しく解説しません)。
認知的柔軟性
認知的柔軟性(Cognitive flexibility)とは、別々の概念を同時に維持し、状況に合わせて切り替えて、複数の視点で物事を考えることができる能力のことを指します。
例えば、みんなで話をしていて、休日の話から犬の話に突然変わったとき、どれだけ迅速に、そしてどれだけうまく対応できるかも、この認知的柔軟性のレベルによって決まります。
思考の硬直化・頑固化を防ぐ
認知的柔軟性は、信念を更新して新しい状況に対応する能力、さまざまな選択肢に気づきそれらを意識する能力、大きな考えを小さな塊に分解する能力なども指します。
認知的柔軟性に問題があると、思考が硬直化し、作業の切り替えが難しくなり、変化が訪れたときや人生を大きく変えるときに問題が生じる可能性があります。
マインドフルネス瞑想を行うことで、物事の良い面が見つけられるようになります。瞑想を行うことで意識や思考といった自分の中の思い込みに気づけるようになり、多面的な視点で物事を捉えられるようになるからです。私たちは新たな視点を得ることで幸福にも気づきやすくなるのです。瞑想おすすめです。
— 心理学を解説する ちょっぺ〜先生 (@kruchoro) 2020年11月6日
衝動制御力
衝動制御力(Inhibitory control または response inhibition)とは、誘惑や雑念を無視して、注意を制御する能力のことです。
文字通り、衝動を抑制する能力を指し、利益を得るために特定の行動を遅らせたり何かを我慢する能力のことを指すこともあります。
健康習慣やルールの順守に必要
例えば、ダイエットのときに甘いものを遠ざけたり、本当は面倒でも健康のために運動をしたりといったことができるのは、この衝動制御力が高いからできるのです。
衝動制御力の欠如がみられる場合は、無意識に不適切な行動をとってしまったり、よく考えた上で状況に対応する能力を欠いてしまう原因となります。
これら3つの能力が正常に機能しなくなることで、ASD・ADHDの人たちは日常生活を営むために必要な習慣や行動を続けることが苦手になってしまっているのです。
参考論文
Hughes C, Russell J, Robbins TW. Evidence for executive dysfunction in autism. Neuropsychologia. 1994 Apr;32(4):477-92. doi: 10.1016/0028-3932(94)90092-2. PMID: 8047253.
https://doi.org/10.1016/0028-3932(94)90092-2
Diamond A. Executive functions. Annu Rev Psychol. 2013;64:135-68. doi: 10.1146/annurev-psych-113011-143750. Epub 2012 Sep 27. PMID: 23020641; PMCID: PMC4084861.