9つの心理的影響力
アメリカの社会心理学者であるフレンチとレイヴン、日本の社会心理学者である今井の研究によると、心に影響を与える要因となる心理的影響力の種類は10つあります。
- 賞影響力
- 強制(罰)影響力
- 専門影響力(専門的知識)
- 正当影響力(高い地位や資格)
- 参照影響力(理想像)
- 情報影響力
- 魅力影響力(相手のことが好き)
- 対人関係影響力(コネクション)
- 共感喚起影響力
- 役割関係影響力(社会的に認められている程度や役割)
今回は社会的な影響力のひとつである、正当影響力について解説していきます。これは社会的地位や立場、資格などに関わる心理的な影響力です。
偉い人が持つ心理的影響力、正当影響力とは?
ルールや基準といった社会的な規範や制度に基づいて形成された心理的な影響力のことを正当影響力と呼びます。
例えば、年上であったり、組織内で高い地位や役職についていたり、国や機関から肩書や特別な資格を与えられているといったものが正当影響力が発動する条件となります。
私たちの心理には社会の規範や制度に従って行動をすれば何らかの賞与や評価を得られ、逆に規範や制度から逸脱した行動をとった場合には、何らかの罰が与えられると考える傾向があります。
つまり、ルールを守ればメリットがあり、ルールを破ればデメリットがあると直感的に考えるのですね。このために権威のある人の指示や命令には従うといったような心理が働きます。
ミルグラム博士の服従実験
過去に行われた有名な心理実験で、ミルグラム博士の服従実験というものがあります。簡単に説明すると、これは人は権威を持つ偉い人からの命令や支持には逆らえないという内容の実験です。
集められた被験者たちは実験監督者の指示に従って、2つのグループに分かれます。片方のグループの人には電気ショックを与える役目を担ってもらい、もう片方のグループの人に電気ショックを与えます。
実験が進むにつれて、電気ショックを受ける人は電気ショックの痛みに耐えられなくなり、実験の中止を相手にお願いするようになります。
しかしそれでも実験は続き、実験監督者は電気ショックを続けよとの指示を出します。電気ショックを与えるグループの被験者は混乱しながらも、実験監督者の指示に従って相手に電気ショックを与え続けてしまいます。そして最後に電気ショックを与えられた人たちは失神します。
つまり、たとえ自分では間違っていると思っても、偉い人からの指示だからという理由で実行に移してしまう心理が私たちにはあるのですね。
ちなみに電気ショックを与えて失神した人たちは全員サクラで、実際には電気は一度も流れていませんでした。
人には偉い人の命令には逆らえない心理がある
そして2006年にアメリカのサンタクララ大学で心理学を教えるバーガー教授は、権威が持つ心理的な影響力を確かめるために、過去にミルグラム博士が行なった服従の実験と同様の追試実験を行いました。
ただしバーガー教授は、過去の服従実験がたった一人の権威者しか現場にいなかったことから指示に従う人が多かったのではないかと考え、今回の実験では被験者に指示を出す実験監督者の役を2人にしました。そして、実験監督者の役の1人が電気ショックを与える指示を、別の一人が電気ショックを与えることを途中で中止する指示を出すというデザインで実験を行いました。
指示を出す偉い人たちの意見が分かれたときに、私たちはどう行動を選択するのかを調べたのですね。
実験では、電気ショックが強まっていくにつれて、サクラの人たちは、痛いからもう実験を止めてくれ!と叫んだり、気絶したかのようにまったく反応しなくなったりと、予め決められたお芝居をしました。もちろん今回の実験でも、実際には彼らは電気ショックは受けていませんでした。
電気ショックを受けるサクラの人たちの演技が激しくなるにつれて、実験監督者の一人は実験を中止するように言います。しかし、もう一人の監督者は実験を続けるように言います。そのような板挟みの状態で、指示を出された被験者はどのような行動をとったのでしょうか?
反対者がいても命令には逆らえない心理
結果を見てみると、権威者の役を2人にして実験の中止を訴える人がいた場合でも、権威者の役が1人の時と同じような結果が出ました。被験者は偉い人の指示に従って電気ショックを与え続けたのです。
つまり、反対者がいても彼らの意見は抑止力にはならず、私たちは権威に服従してしまうのです。数字にして60%以上もの人たちが、他人に電気ショックを与えるという実験を最後まで続けました。
というわけで、恐ろしい結果なのですが、権威性が持つ影響力は私たちが思ってる以上に強いのです。覚えておきましょう。